健康経営という言葉を聞いたとき、何を思い浮かべるでしょうか。
健康診断。
運動。
食事。
睡眠。
メンタルヘルス。
もちろん、どれも働く人の健康を考えるうえで大切な取り組みです。
ただ、さまざまな企業と接する中で、最近一つ考えていることがあります。
「働く人の健康を考えるなら、人と人との関係性も考える必要があるのではないか」
ということです。
忙しくなると、相手へのちょっとした配慮がなくなる。
同じ会社で働いていても、業務以外の会話をする機会がない。
オンラインで仕事が完結し、人と向き合う時間が減っている。
常にパソコンやスマートフォンを見ていて、一度立ち止まる時間がない。
そんな現代の職場に、日本で古くから受け継がれてきた「茶道」を取り入れてみたらどうなるのでしょうか。
今回考えてみたいのが、
「茶道 × 健康経営」
という、新しい組み合わせです。
これは、すでに企業で成果が実証された取り組みを紹介する記事ではありません。
一つの日本文化と出会ったところから、「これを企業の課題と掛け合わせたら、何ができるだろう?」と考えていく、私たちなりの新規事業の思考プロセスを共有してみたいと思います。
01 CASE
「飲む」だけではない。抹茶を“体験”として届ける
今回着目したのは、オーガニック抹茶ブランド「KAGUYA. Style」を展開する神山ナオミさんの活動です。
神山さんは、抹茶を起点に茶道文化を「体験」として再編集し、国内外へ発信しています。
Lei Journalのインタビューによると、神山さんの抹茶は「BVLGARI Ginza Dolci」などで採用されているほか、抹茶カフェの運営や茶会なども手掛けています。
興味深いのは、抹茶を単なる「飲み物」として捉えていないことです。
お茶を点てる。
相手へ差し出す。
受け取る。
その場の空気を感じる。
一つひとつの所作や「間」まで含めて、一つの体験として届けています。
茶道には「一期一会」など、その場、その瞬間、その人との時間を大切にする考え方があります。
ここを知ったとき、
「これは企業の組織づくりにも応用できるのではないか」
と感じました。
02 WHY
なぜ今、「茶道」を企業で考えるのか
仕事の効率は、この数年で大きく上がりました。
オンライン会議。
チャット。
生成AI。
業務自動化。
場所を選ばず仕事ができ、以前より短時間で多くの仕事を処理できるようになっています。
一方で、効率化すればするほど減っていくものもあるのではないでしょうか。
例えば、「相手とゆっくり向き合う時間」です。
仕事ではどうしても、
早く返す。
早く終わらせる。
効率よく進める。
という方向に意識が向きます。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
ただ、
「この人はどう受け取るだろう」
「どうしたら気持ちよく受け取ってもらえるだろう」
「今、目の前にいる人ときちんと向き合えているだろうか」
と考える時間までなくしてしまう必要はありません。
茶道では、一つひとつの所作に意識を向けます。
そして、自分のためだけではなく、相手がいることを前提に場をつくります。
効率化が進む時代だからこそ、あえて立ち止まり、人と向き合う。
その時間そのものに、新しい企業研修としての可能性があるのではないでしょうか。
03 IMADE INSIGHT
なぜ、IMADEが「茶道 × 健康経営」を考えるのか
株式会社IMADEは、茶道の会社でも、健康経営専門のコンサルティング会社でもありません。
普段は営業、マーケティング、事業開発などを通じて、さまざまな企業や経営者の方と接しています。
その中で私たちが大切にしているのが、
「すでにあるもの同士を、新しい視点でつなげること」
です。
例えば今回の場合、
一方には「健康経営」があります。
もう一方には「茶道」があります。
普通に考えれば、あまり関係のない二つかもしれません。
しかし、それぞれを少し分解してみます。
健康経営には、「社員がより良い状態で働ける環境をつくる」という考え方があります。
一方、茶道には、
- 「自分を整える」
- 「相手を思いやる」
- 「目の前の時間を大切にする」
といった文化があります。
それなら、
「この二つを掛け合わせたら、新しい社員研修ができるのではないか?」
と考えてみる。
これが今回のスタート地点です。
04 MARKET
そもそも「健康経営」とは何なのか
経済産業省は健康経営を、
「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」
としています。
つまり、単純に福利厚生を増やすことではありません。
従業員への健康投資を通じて、
- 従業員の活力向上
- 生産性の向上
- 組織の活性化
などにつなげ、企業の成長や企業価値向上を目指していく考え方です。
実際、健康経営に取り組む企業は増えています。
2026年3月に発表された「健康経営優良法人2026」では、
- 大規模法人部門3,765法人
- 中小規模法人部門23,085法人
が認定されています。
健康経営は、一部の大企業だけが考えるものではなくなっています。
そして、ここで重要なのは、
「健康経営=健康サービスを導入すること」
ではないということです。
経済産業省の健康投資管理会計ガイドラインでも、まず企業の経営課題や、それにつながる健康課題を整理し、そこから必要な取り組みへ落とし込むことの重要性が示されています。
つまり、「自分たちの会社は、どんな状態を目指すのか」から逆算して健康経営を考える必要があります。
05 ISSUE
健康経営を「身体の健康」だけで考えていないか
ここからは、私たちの仮説です。
健康経営について考えるとき、
運動。
食事。
睡眠。
健康診断。
疾病予防。
といった「身体」に関する取り組みが、まず思い浮かびます。
もちろん、これらは非常に重要です。
一方で、働く人の状態をもう少し広く考えると、「人との関係性」も無視できないのではないでしょうか。
例えば、
- 同じ部署なのにほとんど話したことがない。
- 上司と部下が業務連絡しかしていない。
- 忙しくなると周囲への配慮がなくなる。
- 仕事中に気持ちを切り替える時間がない。
- 社員同士が、お互いについて知る機会がない。
こうした課題に対して、「もっとコミュニケーションを取りましょう」と言うだけでは、なかなか変わりません。
だからこそ、自然と人と向き合える「体験」そのものを会社の中につくる。
そんな健康経営があってもいいのではないでしょうか。
06 SOLUTION
「茶道 × 健康経営」を企業研修にするとしたら
例えば、5〜10名程度の社員で、90分ほどの時間をつくります。
目的は、「茶道を上手にできるようになること」ではありません。
茶道という体験を通じて、
- 「自分を整えること」
- 「相手を思いやること」
- 「人と向き合うこと」
について考える時間をつくります。
例えば資料を作るとき。
自分が説明しやすい資料ではなく、「相手が理解しやすい資料」になっているでしょうか。
メールを書くとき。
自分が伝えたい内容ではなく、「相手が受け取りやすい伝え方」になっているでしょうか。
会議でも同じです。
自分が何を話すかだけではなく、相手が何を伝えようとしているのかを考える。
茶道で学んだ「所作」を、そのまま仕事で再現する必要はありません。
その背景にある考え方を、日常の仕事へ持ち帰る。
そこに企業研修としての価値が生まれるのではないかと考えています。
07 PARTNER
KAGUYA. Styleの「体験」を、企業へ広げるとしたら
今回、この構想を考えるきっかけになったのが、KAGUYA. Styleを展開する神山ナオミさんです。
神山さんは「食・癒・学・創」という4つの柱を軸に、抹茶や茶会を通じて日本文化の精神性を国内外へ発信しています。
また、Lei Journalのインタビューでは、抹茶について、味だけではなく、点てる所作や「間」、空気感まで含めて文化として捉えていることを語っています。
つまり、「抹茶という商品を売る」だけではなく、
「抹茶を通じて、時間や文化そのものを体験してもらう」
という考え方です。
ここに、企業向けの新しい可能性を感じています。
例えば、
- 健康経営
- 社員研修
- チームビルディング
- リーダー研修
- 社内コミュニケーション
- ウェルビーイング
こうした企業のテーマと、茶道の持つ体験を掛け合わせる。
ただし、現時点で「茶道研修によって健康状態や生産性が改善する」と証明されているわけではありません。
だからこそ、まず小さく試してみる必要があります。
08 NEXT
まず5人でやってみる。新しい健康経営は、そこから始まる
今回の記事で、「茶道を導入すれば、会社が良くなる」と言いたいわけではありません。
まだ、これは一つの仮説です。
だからこそ、
まず5人程度でやってみる。
実際に茶道を体験してもらう。
そして参加した人に聞いてみます。
「何を感じましたか?」
「仕事に持ち帰れそうなものはありましたか?」
「社員同士で体験する価値はありそうですか?」
「どんな会社だったら、この時間が必要でしょうか?」
そこで得られた声をもとに、内容を変える。
もう一度実施する。
そして企業でも試してみる。
この繰り返しによって、本当に価値のある研修になるのかを検証していきます。
「健康経営」という市場から、新しい事業を考えてみる
今回もう一つ共有したかったのが、私たちが新しい事業を考えるときの方法です。
最初から、「茶道研修をつくろう」と考えたわけではありません。
- まず、「健康経営」という大きな市場を見る。
- その中にある、「社員同士のコミュニケーション」「自分自身を整える時間」「相手への思いやり」といった課題を見る。
- そこに、「茶道」という一見関係のない文化を掛け合わせてみる。
- そして、「実際にやったらどうなるだろう?」と小さく試す。
これが、私たちなりの新規事業のつくり方です。
健康経営には、まだまだ新しい可能性があると思っています。
食事。
運動。
睡眠。
メンタルヘルス。
遺伝子。
コミュニケーション。
そして、日本文化。
一見、健康経営とは関係がなさそうなものでも、「社員がより良い状態で働くためには?」という問いから考えてみると、新しい組み合わせが生まれるかもしれません。
「何を導入するか」ではなく、「どんな会社をつくりたいか」。
その未来から逆算して、新しい選択肢を考えてみる。
IMADE INSIGHTSでは今後も、すでに世の中にある事例だけではなく、
「こんな経営の選択肢があったら面白いのではないか」
という仮説についても発信していきます。
そして、面白い仮説が生まれたら、実際に試してみる。
その結果も、また記事にする。
そんな形で、「まだ世の中にない経営の選択肢」を、企業や専門家の方々と一緒につくっていきたいと考えています。